我が国は世界に誇れる最長寿国であり,悦ばしい限りである。しかし,それは長生きができる国であるのと同時に,人口に占める高齢者の割合が高い国であることを意味する。一般に,高齢者は生理的老化の上に病的老化が加わり,ADLが低下して一人で人並みの生活を営むことが難しくなってくる。したがって,長寿者の急増によってこのような多病多薬,生活機能の低下した高齢者で溢れかえることは疑う余地もない。
高齢者医療,看護,介護の目標は高齢者一人ひとりのADL,QOLの向上・維持であり,我々は高齢者が直面する加齢現象,病気や死,毎日の生活や生活環境などを含む様々な状況のなかで適切に対応していくことが求められるところとなる。実際には,身体面,精神心理面,生活機能面,社会環境面からのアプローチに基づいて高齢者を評価し(高齢者総合的機能評価;CGA),評価成績から計画されたケアが多職種で実行されることになるが(チーム医療),これらの基盤となる学問体系が老年医学や老年看護学である。この点で,コンパクト化された本書にはこれらの要点が要領よくまとめられている。
また,高齢者は多くの側面,すなわち人生の意味ある経験,生活史,価値観,生活習慣をもっているという視点からみることも必要で,さらには倫理的課題として自己決定,高齢者差別,虐待・身体拘束,成年後見制度,終末期医療,看取りが取り上げられている。加えて,高齢者を介護する家族にとってもその負担度は大きく,家族と高齢者との人間関係が相互に及ぼす影響も無視できないため,家族への看護にも言及されている。
本書は老年看護に関するあらゆる情報が網羅されており,平成22年版看護師国家試験出題基準の全項目がカバーされているばかりか,平成22年2月に開催された第99回看護師国家試験までもが既出問題チェックに掲載されている点で,国家試験の受験参考書にとどまらず,目の前で苦悩する高齢者のADL,QOLの向上・維持に必ずや役立つものと確信している。
平成22年10月
岩本俊彦