第106回歯科医師国家試験は合格基準変更4年目になり,ABC各領域別基準点及び,必修,禁忌肢の『5重の足切り』方式は,すっかり定着してしまった。しかも各領域の基準点付近に得点のボリュームが集中しており,僅か1〜2点で不合格となった受験生が殆どでは?と推定される結果であった。この合格基準下では,総得点が高いものが一問の不足で落とされ,総得点の低いものが合格するという,総合的学力と逆の結果が生じているとも聞く。
昨年と同じ試験時間(総計530分),各科がランダムに並ぶという昨年同様の形式であり,午前に一般,午後に臨床問題が配分され,直前に相当範囲を暗記する対策が出来ないのは同様であった。
今年の国試で目立った変化は,前年(第105回)で顕著だった問題難易度の低下から,難問化へのシフトであるが,同時に領域別合格基準の恣意的コントロールが行われたことである。
DES採点サービスの統計によれば,A領域の平均得点は第105回の76.1%に対して第106回は70.3%の5.8%のダウン,B領域は82.5%に対し81.0%と1.5%のダウン,C領域に至っては77.6%が70.9%になり6.7%のダウンとすべての領域で難問化を示している。
これに対して合格基準は,A領域の合格基準が52.0%(66/127)(前年66.1%),B領域では73.7%(129/175)(同73.9%),C領域では59.8%(119/199)(同64.0%)以上正答すればよいことになり,前年度のそれぞれ14.1%,0.2%,4.2%の低下(易化)となった。つまり,A,C領域が難問化したにもかかわらず,C領域の合格基準はそれほど低下させていない,言い換えればA領域では落とさずにC領域でふるい落としを行ったと推測される。また,B領域は相変わらず平均得点に対して合格基準は最も厳しいと考えられる。
問題が難問へシフトした,その内容をよく確認して欲しい。病態の何を診て,何を考察して,その結果の臨床的対応のすべての項目を聞いてきていることに気づいて欲しい。今の国試では,従来より一段と深い理解が求められているのである。過去問集を解いて行く回数が増えて,今の実力をもう少し伸ばせば解けそうな問題が増えたと感じて,心に隙,油断が生じることが最大のリスクである。解答の記憶に頼った正答を,理解によって解答出来た!と誤解してしまうのである。
正答率ボーダーが下降したのに合格率が変化しないのは,このボーダー問以上の難易度の問題数が多くなっていても,その中から正答を得て行くのはやはり難しいからである。正答率ボーダーの問題以下(易問)をすべて正答して,それ以上をすべて誤答する人は皆無である。合格するにはそれ以上の難問も正答して行かなければならないのだが,その残された数が少ないことに気づかなければならない。今の国試が厳しい卒業判定をかいくぐってきたものに対して7割しか通さないという相対評価選抜試験であるということを決して忘れてはならない。
DES採点サービスにおける難問上位と採点除外問題は完全に一致しており,前年同様に,厚労省国試データベースとDESデータの傾向一致と信頼性が読み取れる結果となった。今年度も引き続きこのDES採点サービスでの正答率をAnswerシリーズの各問題に併記する形式としたので,学習進度を計る指標として役立てて頂きたい。
問題内容では,第105回でみられた,上級医でも悩ましいケースや学会発表相当に近いような臨床的事項を問題とする出題は依然として出題されており,細かな臨床的事項や,第一線の歯科臨床を題材にしたものが難問として存在し,これをいくつ解けるかが合格の鍵になっている。また,例年同様に解説を書くのが難しい,書けない問題だが,採点除外になっていない!ものがあり,実質的に解答対象になる問題数は365問ない!ことにも注意が必要である。
見学のみで臨床の実体験を経ない教育をされて,肝心の国試には臨床の現場での考え方や感覚,高度な治療オプションの基礎知識が試されるという,受験者には酷な状況は前回同様と言える。
今年度,Answerシリーズはその編纂を大きく変え,XXタイプ問題にブラッシュアップを進めるとともに,前述したように正答率を記載して勉強進度把握に有利なように整理を行った。さらに,識別指数が高い重要問題については「合格チケット」項目を設けて強調し,なぜ解答が割れたのかを検証してあるので学習の一助になれば幸いである。
歯学生の皆さんは,大学での講義と実習を核として,本書と併せて出版されているKEY WORDSシリーズを基に歯科医学の総まとめを行い,特にTaxonomyⅢ型の概念である問題解釈・解決型のトレーニングを積んで,臨床的難問を突破し見事,国試に合格し歯科医師としてのスタートを切っていただきたい。
第107回国試より適応される新しい出題基準は,特に増大する高齢者人口に対応した歯科医療界を担う人材を選択することを意図している。さらなる医学知識の習得と理解にも一層の時間を割く必要があろう。
第107回国試受験生に役立つよう,ガイドラインに準拠し,可能な限り短期間で編集を行った。
本書を利用された皆さんのご叱正をいただきながら逐次改訂を加えていきたい。
この本が十二分に活用され,皆さんの合格に少しでも貢献できることを願ってやまない。
2013年6月 著者代表