厚生労働省によれば,歯科医師国家試験の出題基準は4年毎に改定されている。平成26年に行われた第107回から出題範囲の大幅な見直しがなされたので,今年度の平成27年に行われた第108回の国家試験も第107回と同様な出題規準がとられている。
即ち,改定の基本的な考え方は昨年と同様に,
Ⅰ ブループリント(歯科医師国家試験設計表)の出題総数は365題,必修問題数は70題。
Ⅱ 臨床実習での学習成果を中心とした,卒後臨床研修開始前の到達度を確認することに主眼をおき,歯学教育モデルコアカリキュラムで明示されている到達目標との整合性を図る。
Ⅲ 国民のニーズに対応できる歯科医師を確保できるよう,以下に示す通り最近の社会的な要請が強まっている事項に重点を置く。
1)次の5項目についての出題を充実したものとする。
(1)歯科医師として必要な高齢者や全身疾患を有する患者への対応に関する出題
(2)「歯科口腔保健の推進に関する法律」の制定等を考慮した歯科疾患の予防管理に関する出題
(3)医療保険,介護保険等を含む現行の社会保障制度に関する出題
(4)口腔と全身疾患の関係に関する出題
(5)救急災害時の歯科保健医療対策,歯科法医学に関する出題
2)次の4項目についての出題を引き続き行う。
(1) 児童の虐待への対応
(2) 医療安全,感染対策,薬害等
(3) 放射線の人体に対する影響
(4) 診療に必要な英語
さらに,昨年度より必要最低点の決定が行われている。
バランスのとれた知識,技能を持った歯科医師が求められていることから,歯科医師国家試験の領域を構成するグループ別に,必ず得点しなければならない最低点が設定されており,今年度の合格基準は次のように設定されている。
(1) 領域A 総論 68点以上/109点
(2) 領域B 各論Ⅰ〜Ⅲ 127点以上/185点
各論Ⅰ 歯科疾患の予防・管理
各論Ⅱ 成長発育に関係した疾患,病態
各論Ⅲ 歯,歯髄歯周組織の疾患
(3) 領域C・各論Ⅳ〜Ⅵ 139点以上/205点
各論Ⅳ 顎,口腔領域の疾患
各論Ⅴ 歯質,歯,顎顔面欠損による障害とその他の口腔顎顔面の機能障害
各論Ⅵ 高齢者の歯科診療
(4) 必修問題 55点以上/68点
(※必修問題の一部を採点から除外された受験生にあっては,必修問題の得点について総点数の80%以上)
(5) 必要最低点 0領域以下
(6) 禁忌問題選択数 2問以下
以上の合格基準で今年度第108回国家試験の結果は,
全体 3,695人中2,003人 63.8%
新卒 2,525人中1,457人 73.0% であった。
ほぼ昨年と同様であり,決してよい成績ではないが,現在の歯科医師過剰の現実から考えて,国家試験合格率の低下は続くであろうことが推測される。
そこで,第109回の歯科医師国家試験はどのような傾向にあるかが問題になるが,第108回と同様な傾向が考えられる。
いずれにしても,「孫子語録」にあるように,「いくさをするにはまず敵の実情をさぐり,自分の力を知って行えば必ず勝てる」ということである。
諸君が戦う相手は歯科医師国家試験であり,自分自身の力を高めて己を知ることである。
まさに,Answerが扱う過去の試験問題こそ敵の実情であり,勉強した成果を模擬試験で知ることが,己を知ることになるだろう。
大学での講義と実習を核として,Key Wordsシリーズを基に歯科医学の総まとめを行い,自分の実力を高め,Answerで敵の実情を知り,国家試験に合格し,歯科医師としてのスタートを切って頂きたいと思う。
この本が十分に活用され,皆さんの合格に貢献できることを願ってやまない。
2015年4月
東京医科歯科大学 名誉教授
DES歯学教育スクール 理事長
榎本 昭二