超高齢社会において歯科医師に求められるものは,従来のような歯科診療所に通院できる健全な者の口腔内の問題を解決する歯科医療ではなく,口腔機能の維持向上によって,全身の状態や生活機能を改善しQOLの向上につなげる歯科医療である。地域包括ケアシステムという地域システムの中で協働して機能するためには訪問歯科診療を行うことも求められるだろうし,その際には全身のリスク管理能力も必要となる。
歯科医師国家試験の出題基準が改定され,平成30年の第111回歯科医師国家試験からは新基準で出題された。新基準では次の項目の充実が図られている。
・高齢化等による疾病構造の変化に伴う歯科診療の変化に関する内容
・地域包括ケアシステムの推進や多職種連携等に関する内容
・口腔機能の維持向上や摂食機能障害への歯科診療に関する内容
・医療安全やショック時の対応,職業倫理等に関する内容
これらは社会情勢の変化に対応するために,これからの歯科医師に求められるものである。
実際に「地域包括ケアシステム」は必修の基本事項にも総論にも明記された。さらに本年度から介護保険法が地域包括ケアシステムを強化するために他の関係法規とともに改正された。
本書では,最新のデータ更新とともにそのような新しい制度変更に対しても可能な限り対応し,受験生諸君が国家試験の変化にとまどうことのないよう努めた。
公衆衛生学や社会歯科学はこれからの歯科医師にとって必要な社会科である。歯科医学という理科を主に学んできた諸君にとって,それらを学ぶことには違和感があって当然である。しかし,歯科医療は理科のみでは成立しない。社会の中で役立ってこその歯科医療であり,社会科で今という時代を知ることによって,これまで学んできた理科的知識が有効に活用されるのである。
本書が,国家試験合格のために,そして良き歯科医師になるために,読者諸君の役に立てば幸いである。
2018年10月
著 者