旧来であれば,薬剤師は,医師の書いた処方箋に基づいて特定の患者に薬を調剤し,服薬の指導を与えることがその業務でした。しかしながら,現在では薬はすでに大部分が製剤化されており,薬剤師の調剤に関する技術的,職能的役割は大きく変化しています。最近の薬剤師の役割として要求されているものに,①医師の指示または処方の内容を見極め,適切な剤形による正確,安全な調剤,②投薬の実施と服薬条件の指導,③患者の安全確保のための医薬品などに関する適切なリスクマネジメント,④臨床データを利用した薬物治療における至適投与法の設計(TDM),⑤医薬品相互および医薬品と食品の相互作用の把握(防止),⑥医薬品情報に基づく処方監査や薬歴管理,⑦IVHの調整や院内特殊製剤の開発,などが挙げられます。このように,薬剤師は医薬品の適正使用や薬物治療に直接間接的に重要な役割を担っているといえます。加えて,平成22年には,「薬剤師は薬の安全性確保の責任者」と認められ,それに伴う医療行為,すなわち降圧薬の効果を確認するための血圧測定,ぜん息患者における薬物効果の判定に呼吸音を判定できるなどは適法であるというお墨付きが出ています。従来型の調剤の熟練者,技術者から,薬の専門家と臨床検査技師,看護師の能力が合体した医療チームの一員として進化しなければならない時代がやってきています。すなわち,処方箋をみたら,処方意図を察知して,患者の病態やバイタルサインなどと処方を構成している薬の組み合わせが,合理的,合目的であるか判断し,疑義紹介,副作用の予見に基づく有害作用の防止に役立てられる能力を身につける必要があります。本書はその能力を養成するために書かれた本であり,『イラストでみる疾病の成り立ちと薬物療法』と題しているように,薬剤師として働く病院で遭遇しやすい疾病について,イラストを多用してわかりやすく,臨床検査を含めて解説してあります。
また,治療には,薬物治療と非薬物治療についてのすみわけを行い,薬物治療に関する説明を詳細に述べてあります。この執筆には,疾病部分は主に,医師により手がけられ,薬物療法に関しては,全国の薬科大学において,教鞭をとっておられるその分野の専門家の教授によって大部分は書かれております。もともとのこの本の原型は,看護師になろうとしている学生向けの本でありました。特に,疾病の成り立ちをわかりやすくイラストを多用して解説してありました。わたくしは,この看護師用の本を手にして,疾病部分は医療現場で重要なものが収載されていると感じました。そして,これを薬物治療学の面を強化して執筆したら,これから薬剤師になろうという学生にとって格好の教材になるのではと考え,医学評論社の編集部に相談して,今回の出版の運びとなりました。執筆者を代表してご協力に御礼申し上げます。
加えて,この本のもう一つの特徴は,各章の最後に,確認テストと過去に出題された薬剤師国家試験問題を収載し,重要ポイントを理解できるようにまとめてある点です。このようなことから,医療変革の時代に主役となる薬剤師をめざす学生の病態生理学,薬物治療学の講義のテキストとして,大変有用な本になるであろうと自負いたしております。この本で勉強された学生さんが,将来薬剤師として,国内外の医療チームのメンバーとして,活躍し,他のコメディカルをリードされるのを楽しみにペンを置きます。
編者 小野寺憲治