疾病の原因や病態が,様々な自然科学分野の発展にともない明らかとなってきている。それによって分子標的薬や抗体製剤などの多くの医薬品が出現し,あるいは発売を待っている。わが国の医療は,このような先端医学の知識と技術を駆使したチーム医療を目標に,医師,薬剤師,看護師,検査技士などの医療従事者達がそれぞれの専門性を生かし,かつそれらを結集させて,患者の診断と治療を行う体制になってきている。そのため,各種疾病の病態を理解し,その基盤の上に適切な薬物治療を構築できる能力が,薬剤師にも求められている。また切れ味鋭い薬効の新薬には,その裏腹に危険な副作用や未知の有害作用が隠れている場合も少なくない。このような薬の安全な使用を推進するスペシャリストとしての薬剤師への期待が一層高まってきている。
以上のような薬剤師を取り巻く環境の中で,6年制の薬学生には多学年にわたって疾病と薬物治療を学ぶ必要性が生じてきた。しかし一方で,薬学生のために分かりやすく書かれた病態生理と薬物治療に関する教科書は,まだ少ないのが現状である。本書は,そのようなニーズに応えるべく,6年制の薬学生が疾病の病態生理や症例に応じた薬物治療を分かりやすく学ぶことが出来るよう,医療薬学関係の大学教員が知識と経験を駆使して執筆を手がけたものである。一方で,医学の進歩は日進月歩であり,上述したような抗体医薬をはじめ新たな医薬品が次々と市場に登場している。そのような変化に対応するべく,このたび新版の発行に至った次第である。
本書はオリジナルの図表を多く取り入れ,また症例とそのPharmaceutical Pointsを随所に挿入することにより,本文の解説内容がより理解しやすくなるよう心がけている。また,症例を総合的に判断し,そこから得られる情報を基に個別に薬物療法を設計していく力が今の薬学生に求められており,事実そのような薬剤師国家試験の問題が増えている。その意味でも,本書に取り上げた種々の症例で,自分の実力を試してみてほしい。なお本書は,各臓器・組織の基本的な配置や構造あるいは疾病における病的変化を概説することにより,基礎知識が十分でない初学年からでも勉強しやすいように工夫を凝らしてある。
薬学6年制の皆さんは,いずれ薬剤師となり,薬物療法のスペシャリストとして第一線で活躍することになる。その際,本書で学んだことは実践でも必ず生きてくるであろう。薬学の意図するところは,言うまでもなく,患者の健康と福祉の向上に寄与することであり,薬学を学ぶ皆さんは,終始その目標と精神を忘れないでいただきたいと願う次第である。
2015年3月
執筆者を代表して