学習指導要領に従っていた高校までの教育とは異なり,大学では,憲法第23条の「学問の自由」により,多数の教員が偏向的な内容(これらも学問の進歩には必要である)も含め自由に講義する。学生にはそれらを自分の能力で取捨選択することが求められ,大学に入学したということは,その能力のある者であるという前提がある。そのため,多くの医学生が本来医師としての人間形成のために使うべき多くの時間を割いて,医学の勉強のみに膨大な時間を注がねばならなくなっている。
「医学専門課程で学ぶ知識のすべてがこの一冊に!」のもと,グローバルスタンダードな医学知識で,共用試験CBT:Computer-Based Testingや医師国家試験に出題された内容を中心とし,単独執筆でこそできる多科の垣根をこえた病態生理に重点を置き,体系的で,重複なく,最小限の時間で,効率よく,医学が学べる本として『メディカルインデックス』を世に出した。丸暗記の断片的な知識と異なり,病態生理に基づく体系的な知識は,「考える医学」のもとになる。
しかし,CBT問題は公表されておらず,その再現も諸般の事情により困難となっている。第三者の評価を受けることのない問題で医学生を評価するとの疑問は残る。そこで注目したのは看護師国家試験問題であり,そこでは医師国家試験よりは医学知識そのものは基本的な知識が出題されているものの,「患者に寄り添う」という方針が明確であり,そこで出題された問題が,その後医師国家試験に出題されることも多くなってきている。第3版では第2版までのCBT問題の『
*』記号を看護師国家試験問題に出題された内容とし掲載することとした。実際に調べてみると,看護師国家試験の約80〜90%の内容が近年の医師国家試験の範囲に含まれることがわかる。これにより,患者中心の医療をするための知識が身に付けられるものと信じている。
この本が,医学生のみならず看護学生を含むコメディカルの学生,さらには現役の医療従事者に有益となり,それにより我が国の医療の質の向上に資すればこの上ない喜びである。
また旧版を読んでいただいた皆さんの助言,特に「何が分からないか」を教えてくれた学生には大変感謝している。
新小山市民病院 病理診断科 金井信行
①各項目の数字は医師国家試験(厚生労働省のホームページに問題と正答が掲載されている)の問題番号を示す(より深い問題解説にはテコム出版事業部の解説書『国試112』等を推奨する)。例えば第109回A問題30番は
09A30とした。5年間に出題された内容とし,項目により少ないところでは第100回にまでさかのぼって掲載した。
②『
*』は看護師国家試験で出題された内容を示す。看護師国家試験問題(本書のページ順とし,ぺージと正解の記載を予定しているので,本書の理解,知識の確認に役立つ)や看護師国家試験独自の領域(看護史,看護師関連の法律,制度など)については,テコム出版事業部のホームページ(http://www.tecomgroup.jp/books/)に掲載予定であり,有効に活用してもらいたい。
③重要な語句を
青色文字(表題の疾患名とともに,索引に掲載し,説明しており,医学用語辞典としても使用可能)とした。
④多くのことを説明できる要点を
青色線,本来記憶すべきでなく,論理的に導きだすべき知識を
灰色線で下線した。『なぜそうなるのか』という『考える力』を養ってもらいたい。
⑤本書は掲載の重複を最小限としているので,☞ で示した関連事項は必ずチェックしてもらいたい。医師国家試験,看護師国家試験問題も,元の項目のみでなく ☞ で示したページも含めて調べる必要がある。
⑥英略語については索引とともに,巻末の附録1 略語一覧で確認すること。
〔第113回医師国家試験問題のページ対応表はこちら〕
医学部では教養教育・総合教育の後,臨床実習に入る前の2〜3年間程度の期間で大部分の医学知識を学ぶため,多くの専門医による講義・多数の分厚い本による膨大な知識に曝露されることになる。
医学知識はすべて重要である。その知識を知らなかったばかりに,患者の予後が変わってしまうような知識は特に重要である。しかし,そのような知識がどれか判断するのは困難である。
近年,共用試験CBT〈CBT〉や医師国家試験〈国試〉の問題は,すべての医師が知らなければならない,専門分野に偏らない幅広い知識が出題され,かつてのような専門医のみが知らなければならない知識を問う問題は減っている。
しかし,これでも膨大な量の参考書・問題集を使わなければ習得できない。どの本のどこに載っていたかを思い出すのも大変である。医学知識は各分野で重複する内容も多い。執筆者による見解の相違も少なくないし,常に新しい論文により内容が変遷する。これらが医学を学び始めた者が混乱する大きな原因となっている。
そこで,基礎医学を含め,専門課程で学ぶ必要のある知識のすべての領域を一冊で網羅する本を,分担執筆ではなく,1人で執筆することにした。
著者は地域中核病院での全科ローテート研修,へき地診療所での地域医療に従事した後,病理医となり,病理学のみならず,CBT,国試対策,良き総合医の養成といった医学生の教育に携わってきたが,当然ながらすべての領域について専門家であるわけはない。また簡潔な表現にするため,やや正確さを犠牲にしている部分も少なからずある。その点については謙虚に読者のご批判も受けるつもりである。
しかし,内容の重複,差異は最小限となり(したがって読者は知識の検索にあたっては,必ず関連事項も読んでもらいたい。また用語について解説しているわけではないので,他書,医学用語辞典やインターネット等で調べる必要がある),全体の見解も統一することができたと信じている。
この本を読むことで,常に全体を俯瞰しながら,「現在学んでいる知識がどの位置にあるか」「何が原則で何が例外か」「同じような病変が他の臓器ではどのように理解されているか」を,病態生理を考えながら,短時間で,論理的に,効率よく学べ,反復することで,定着しやすい知識を得ることができると考えている。
広い視野からみることは,総合医としての能力を持つために重要で,鑑別診断を考えるときに力を発揮できる。もちろん,これだけで十分ではない。この本を土台に多く成書,論文などを読み,教官や先輩医師の方々の話を聞いてほしい。基礎ができていれば,いろいろな考え方も批判的に受けいれることで,考え方の幅がひろがる。なお,その際に,本書全ページの下欄に設けた書き込みのためのスペースも活用してもらいたい。
内容は医学教育モデル・コア・カリキュラムに即して,国試で第100回以降の6年間に出題された知識(国家試験の回数下1桁と番号を記入),CBTで出題されそうな内容(CBTでは一部の問題のみ公開されており,そこから必要と考えられる知識を推測し『*』をつけた。より重要なものは個数を増やした)を中心に構成したが,この本は単なる試験突破のためだけの本ではない。
著者は医学書として,世界で最も頻繁に改訂され,よく売れているCurrent Medical Diagnosis & Treatment〈CMDT〉,Current Diagnosis & Treatment, Pediatrics〈CDTP〉,The Merk Manual,Harrison's Manual of Internal Medicineの最新版のすべてに眼を通すようにしており,医学生,研修医にも勧めている。これらには救急,産婦人科,精神科,マイナー科目の知識もかなり入っている。臨床科目の試験問題の内容はこれらの本で,さらに公衆衛生領域は『国民衛生の動向』,基礎医学はFirst Aid for the USMLE STEP 1,Rypins' Basic Science Reviewなどを使い検証した。
せっかく国家試験のために学んだ知識も,合格すればすぐに忘れてしまうのはもったいないことである。この本はすでに医師となった先生方の卒後教育としても威力をもたらすと考える。
医学生,医師だけではなく,看護師など他の医療従事者や,さらに非医療従事者でも,特定の疾患の情報が入手しやすい現在,本書は医学全体を見渡すことのできる羅針盤となるであろう。
自治医科大学 医学部 医学教育センター/病理学講座
金井 信行
注意事項
1) 用語は主に医師国家試験出題基準に準じた。
2) μ (マイクロ)は mc,l (リットル)は L とした。
3) コアカリに準じた記述としたが,CBTで出題される可能性の高い内容および国試で出題された内容,日常診療で有用と考えられる知識を優先して記載した。身体診察や検査は,臓器別の項に収め,感染症は微生物に統合するなど改編した。