20世紀後半に著しい発展を遂げた免疫学,分子生物学,情報工学などの思恵を受けて医療は長足の進歩を遂げた。とりわけ歯科医療にとって近年では再生医学,歯科材料学の進歩による影響が著しい。
歯科医療は従来型の一本のむし歯の治療から,一人の患者をとりまく全身的な背景を考慮して,口腔を一つの身体の器官として考え,歯周治療や咀嚼機能の回復にあたるようになった。また,スウェーデンをはじめとして欧米各国では著しい発展を遂げている歯科インプラントが,わが国においても歯科医療の一つの選択肢として大きな分野を占めるようになってきた。
要は今までの口腔外科学,歯科保存学,歯科補綴学といったカテゴリーから,口腔を全身の一部とした総合的な治療概念が必要となっている。
歯学部教育では各分野の高度な専門知識が優先されるが,実際の臨床の場では各分野を網羅した総合的な知識が必要である。
平成18年から歯科においても医科と同様に臨床研修医制度が発足したが,歯科医療全般にわたる総合的な知識が益々必要になっている。
一方,歯科医療をめぐる社会情勢も大きな変化を遂げており,厚労省によると医療施設で働く歯科医師は平成24年の時点で全国に10万人で,人口10万人当たりの数は40年前の2倍となっている。歯科診療所は約6,800という過当競争の時代である。
しかし,最近は医科と歯科の連携が叫ばれており,歯の治療や清掃によって手術患者の感染リスクが抑えられるほどの研究成果も出ている。高齢社会を迎え在宅歯科治療も益々必要となり,健康寿命の延長のためにも歯科医療の内容は益々拡がっていくものと思われる。
本書を手にした受験生諸君が全員揃って国家試験に合格し,しかもこの過当競争の時代に各々が自分の目標を定めて努力することを祈念してやまない。
平成27年4月
榎本昭二