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卒論・修論発表会を乗り切るための 理系プレゼンの五輪書

プレゼンのお作法から発表までのノウハウ(50条)を図やイラストを使って解説!

卒論・修論発表会を乗り切るための 理系プレゼンの五輪書

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   紙書籍 
斎藤恭一(千葉大学大学院工学研究科教授)
中村鈴子 絵
[みみずく舎:発行]

四六判,184頁,1色刷(一部4色刷)
2010/05/26発行
¥1,760(本体¥1,600+税¥160)
ISBN 978-4-86399-023-4
好評発売中の「卒論・修論を書き上げるための理系作文の六法全書」の姉妹編。
大学の研究室の現場からプレゼンの方法論を実際的に解説。
【解説編】では、「心構えの巻」の第1条から「演技の巻」の第50条までにわたって、プレゼンのお作法から最終段階の発表にいたるまでを、図(スライド)、あるいは絵を使って楽しく、分かりやすく解説。
【実例編】では、「卒業研究発表会」「修士論文発表会」「学会での発表」で実際に発表されたスライドをもとに、発表での「見せどころ」「シナリオ」「聴かせどころ」を解説。
「実例編」で使用されたスライドの色合いはカラーで収載した口絵を参照。

はじめに
 大学院の修士課程での研究がまったくうまくいかず,それゆえに博士課程に進み,それからようやく2年目の夏に化学工学会主催の学会(仙台)に参加して初めて口頭発表をした.そのときの要旨集はもう手元にはないけれども手書きであった.万年筆を使って書いたために,学会参加者に印刷,配布された要旨集を見たら原稿の文字がかすれていた.当時(約30年前)は,パソコンもワープロもない時代であった.
 当然,3年で学位(博士号)を取れるはずもなく博士課程4年目に突入した.その秋に,所属していた研究室の助手のポストがたまたま空いて,そこに採用していただいた.学生時代と同じことをしていて給料をもらえるはずもなく,学生実験の手伝いと卒研生1名の指導という仕事をもらった.
 “卒研生”とは「卒業研究」という科目を履修する学生のことである.おもに大学に入学してから4年目の学生である.その学生を4月から指導し始めて,翌年の2月末の卒業研究発表会で成果を発表できるまでに育成する.学科の先生の前で7分の発表と2〜3分の質疑討論に耐えると,学生は無事卒業となる.学生にとっては,この“卒業研究発表会”が人生で初めての理系プレゼンテーション(以後,理系プレゼンと略する)の機会である.ここでプレゼン能力が確実にアップするはずである.
 新しい研究を通して成果を生み出す苦しみを味わってこそ,学生の将来に役立つわけである.大学の勉強の総まとめでもある.その後,大学院修士課程に進むと,2年後に修士論文発表会が待っている.そのときには発表の持ち時間は12分と長くなる.そして質疑討論の時間が倍になる.
 1982年から数えて,助手8年,講師1年,助教授4年,1994年に転任して助教授10年,教授5年が経った.合計すると28年.1982+28=2010,計算は合っている.この28年間で,延べ130名の卒研生と修論生,さらには14名の博論生を指導してきた.初めのうち(若い頃)は指導力が足らず,熱だけが入っていた.今は指導時間が足りない.さまざまな用事に時間や能力を吸い取られている.
 指導した学生,一人一人に対して,発表会,学会,予備審査会,そして公聴会のプレゼンの練習および本番に付き合ってきた.きっと300回程度数を重ねているだろう.指導をしているうちに学生のプレゼンだけではなく人生を批判していることも多い.真剣に叱ってきた.でもこれではお互いに心身ともにもたない.
 大学では,研究室に入ってくる学生はいつも変わらず22,23歳であるのに,先生は毎年歳を重ね老いていく.年齢差が拡がっていく.それに加えて,最近,残念なことに,学生の国語力が落ちてきている.指導がしんどくなってきているのだ.毎年のプレゼン指導に飽きてきている私には,指導のときに迫真の演技力が要求される.
 そこで,これまでに学生にうるさく言ってきた理系プレゼンのルールやノウハウをまとめておいて,発表練習の前に,研究室の学生さんに読んでおいてもらいたいと考えた.もちろんそれを読んだだけでプレゼンが急にうまくなるはずもないけれども,指南書があってわるいことはない.それぞれの先生に独自のスタイルがあるだろうし,それぞれの学生に独特のセンスもあるだろう.それにしても理系プレゼンには共通の方法論はあると思う.
 自分の研究成果を他人に確実に,できれば魅力的に伝えて正当な,できれば高い評価をもらう,そして世の中に役立ててもらうというのが理系プレゼンの目的である.その目的を達成するのに有効な方法論があると学生にとっては助かる.プレゼンの数を増やしていくと,自然にうまくなるだろうと思ってはいけない.努力が無駄にならないように,適当な方法論が必要である.大学の研究室の現場からの方法論をここで提示することにしたい.
 この本では,理系プレゼンの方法論を,心構えの巻,シナリオの巻,図表の巻,スライドの巻,そして演技の巻という5つに分けた.そこには合計50個の“心得”(ルールやノウハウ)が書いてある.図表とスライドの巻では,スライドの例を挙げながら解説している.しかしながら,慌ててはいけない.まずは実験をしてプレゼンに値する結果を出すのが先決だ.
 この本には,研究室の4年生から修士2年生までの学生が行う卒業研究や修士論文発表会,そして学会発表のプレゼンを指導するなかで,私が実践してきた心得をまとめた.すでにこれまで,理系,文系を問わず,プレゼンテーションについての本が多数,出版されている.私もそうした本を読んで学生の指導に役立ててきた.何かの本を写して書いたものではないけれども,この本の内容は何かの本から習得したこと,そして先輩や先生方から教えていただいたことであることは間違いがない.
 原稿を丁寧に読んで意見をくださった,常田聡先生(早稲田大学先進理工学部生命医科学科教授),梅野太輔先生(千葉大学工学部共生応用化学科准教授),そして研究室の学生諸君(三好和義さん,松野伸哉さん,浅利勇紀さん,池田浩輔さん)に感謝いたします.ありがとうございました.
 石原量君(現在,千葉大学大学院工学研究科博士後期課程2年生)には解説編と実例編の図面の編集に多大な協力をいただきました.おかげでユニークな内容になりました.
 すばらしいイラストを描いてくださった中村鈴子さん,またこの本の企画に賛同して,丁寧に編集作業をしてくださったみみずく舎の斉藤康彦さんに御礼申し上げます.

 2010年 千葉大学キャンパスの桜が満開の頃

斎藤恭一

目次
解説編

Ⅰ.心構えの巻
 第1条 聴衆へのサービスを最優先させる
 第2条 プレゼン次第で就職や研究助成が決まる
 第3条 聴衆側のコストに見合う講演を心がける
 第4条 他人の講演を聴いてよい点をまねる
 第5条 基本を身につけてから個性的なプレゼンを行う
 第6条 プレゼンはうますぎてはいけない
 第7条 最後は中身であることを忘れてはいけない
 第8条 質疑討論のやりとりから発表者の実力がわかる

Ⅱ.シナリオの巻
 第9条 プレゼン時間(分)のせいぜい1.5倍の枚数分,スライドを作る
 第10条 「緒言」に配分する時間を初めに決めておく
 第11条 絵コンテで全体の構成を決めてからシナリオを書き始める
 第12条 研究のオリジナリティを明示する
 第13条 目的と結論を呼応させる
 第14条 セールスポイントの入った図表の説明に時間をかける
 第15条 スライドとスライドのつながりを丁寧につける
 第16条 パラレリズムに沿った表現を心がける
 第17条 スライドに書いていないことを長々としゃべらない
 第18条 略号を暗記してもらえる工夫をする

Ⅲ.図表の巻
 第19条 図には表や文の1000倍のインパクトがある
 第20条 プロットを結んで線を引く
 第21条 文字や数字を読めるまでに大きくする
 第22条 記号説明表をなるべく使わない
 第23条 図の枠,プロット,線の太さに差をつける
 第24条 文字や数字を置く位置に気を遣う
 第25条 表では小数点の位置を揃える

Ⅳ.スライドの巻
 第26条 工夫して見出しをつける
 第27条 “BOX法”によってキレのよいスライドを作る
 第28条 ストーリー案内用スライドを作る
 第29条 比較のための図表やイラストを徹底的にわかりやすくする
 第30条 ごちゃごちゃした印象を与えない
 第31条 文ならせいぜい8行までとする
 第32条 “スライドの残像効果”を利用する
 第33条 左右または上下の並びを選んで効果がある配置にする
 第34条 図もイラストもないスライドは寂しいことに気づく
 第35条 文のとる幅や文体をなるべく揃える
 第36条 発表直前まで細部を点検する
 第37条 差を見てもらう線と線の間に文字や矢印を入れない
 第38条 理由をつけてスペースを空ける
 第39条 図やイラストの説明文を近くに置く
 第40条 色を使いすぎない,しかも統一するプレゼンでの単位や略号の読み方
 第41条 役割ごとに矢印の種類を変える
 第42条 1文には句点をつけない
 第43条 文の改行位置を選ぶ

Ⅴ.演技の巻
 第44条 シナリオを作っても本番で読まない
 第45条 聴衆の邪魔にならない位置に立つ
 第46条 片手をズボンのポケットに入れてしゃべらない
 第47条 レーザーポインタを動かしすぎない
 第48条 心地よいスピードと声量でしゃべる
 第49条 短いプレゼン時間では敬語や丁寧語を使わない
 第50条 爽快なプレゼンをめざす

実例編

1.卒業研究発表会
「高分離能を達成するタンパク質精製用クロマトグラフィー担体」
2.修士論文発表会
「微量金属分析の前処理のための抽出試薬担持多孔性シートの作製」
3.学会での発表
「生体試料分析に応用できるサイズ排除型高分子膜分離材料の開発」

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