化学工学は,物質・エネルギーの変換・移動システムの総合的な取り扱いを体系化した工学の一分野である.歴史的には,化学産業の発展に伴って理論的な基盤が確立されたものであるが,その後,化学製品の製造プロセスにとどまらず,エネルギー・資源,食料,医療,環境などに関わるシステムにもその対象を広げてきている.また,ナノテクノロジー,エネルギー利用,生体医工学,環境浄化などの先端技術分野の発見・発明にも直接関与するようになってきたため,広範な専門分野の研究者・技術者にとって,化学工学の基礎を理解していることは必須のものとなっている.
本書が想定している読者は,主として,大学・高専において,初めて「化学工学」を学ぶ学生,この科目だけで「化学工学」のすべての講義を終える化学系の学生,あるいは,化学工学を専門としない自然科学系の学生である.教科書だけでなく独習書としての利用も想定しており,専門外の分野として短期間で化学工学を独習する必要が生じた研究者・技術者が利用することも考慮している.
本書は化学工学の入門書ではあるが,この1冊を学修することによって,化学工学の体系の全体像を概観できるように,基礎的事項に加えて,化学平衡論(熱力学),移動現象論,反応速度論と反応工学,粉体工学,分離工学(単位操作),プロセスシステム工学,という6つの基幹分野,生物化学工学,エネルギー化学工学,環境化学工学という3つの代表的な応用分野を網羅している.他方,全体の分量が多くなりすぎないように,大胆な取捨選択を行い,基礎的かつ重要な事柄のみ記述するように努めた.
化学工学の特徴の一つは,複雑な現実のシステム(現象)を定量的に取り扱うことができる点にあるので,定性的な記述だけでは本質的な理解にはつながらないと考え,昨今の化学系の学生には敬遠されがちな数式を用いた記述を回避することはしなかった.一方,化学工学的な考え方が反映された具体例や模式的な説明を提示することにも努め,各章末に課題・演習などを加え,略解を付け加えて,学修・指導の補助となるようにもしている.
各章の執筆者は,化学工学の各分野を専門として,第一線で活躍中の比較的若手の気鋭の研究者であり,大学・高専での教育経験を踏まえて,それぞれの得意分野を分担して執筆した.しかし,表記の誤りや不備,わかりにくい記述があるかもしれない.ご叱正をいただければ誠にありがたい.
最後に,本書の編集・出版にあたり,みみずく舎/医学評論社編集部に大変お世話になったことを記して感謝申し上げたい.
平成24年3月
著者を代表して
関 実