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岡潔とその時代 II 龍神温泉の旅 ― 評伝岡潔 虹の章

「数学の詩人」岡潔。小林秀雄・保田與重郎・玉城康四郎等,岡をめぐる人々との交流を軸に,その人間性に迫る!

岡潔とその時代 II 龍神温泉の旅 ― 評伝岡潔 虹の章

販売中
   紙書籍 
高瀬正仁 著
[みみずく舎:発行]
四六判,292頁,1色刷
2013/05/23発行
¥4,180(本体¥3,800+税¥380)
ISBN 978-4-86399-195-8
「数学の詩人」の傑作評伝 完結!
「脱俗」「憂国」の数学者。文化勲章を受章し日本を代表する世界的数学者にしてベストセラーエッセイの数々で「日本の精神のあるべき姿」を求め続けた岡を描く。
小林秀雄・保田與重郎・玉城康四郎等,岡をめぐる人々との交流を中心に,岡潔の人間性に迫る!
II巻では,当時大きな反響を呼んだ小林秀雄との対話篇「人間の建設」を軸に“情緒の数学”とは何か(第四章),日本浪曼派を代表する文芸評論家・保田與重郎と激動の中国を生きた革命家・ジャーナリスト胡蘭成と岡の交流(第五章)を描く。また,巻末に詳細な岡の年譜を付した。

目次
第四章 人閧フ建設 小林秀雄との對話─多變數函數論の創造と情緒の數學
 小林秀雄との出會ひ
 大文字五山送り火の日の對話
 現代數學の抽象化を憂へる
 數學のリアリティをめぐつて
 マッハボーイ
 「情緒の數學」を語る
 内分岐領域の理論
 リーマンのやうに
 「情緒の數學」のもうひとつの例─ガウスの數論
 「情緒の數學」の再生に向けて
 【エピローグ】後日談拾遺抄

第五章 龍神温泉の旅─保田與重郎との交友
 月日亭の一夜(一)
  晩年の友情/栢木喜一先生の訪問/保田與重郎/和泉式部の歌/「春宵十話」を語る/俳句と連句/日本的情緒と善行
 月日亭の一夜(二)
  鈴木大拙との會話/特攻隊/武者小路実篤の言葉/百姓と指物師の話/日本の情緒の世界
 保田與重郎との交友
  栢木先生の再訪を受ける/『現代畸人傳』の出版記念祝賀會/新和歌浦に遊ぶ/日ヘ組/大學紛爭の時代/東邦莊にて
 胡蘭成
  交友のはじまり/ピカソと無明/胡蘭成の名を聞いたころ/汪兆銘/張愛玲/漢奸裁判/胡蘭成の亡命/梅田開拓筵
 龍神温泉の旅
  東邦莊の集ひ/龍神温泉まで/山鳥の聲/北壽老仙をいたむ/天下英雄會/名殘りの色紙
 葦牙會東京同志會
  大阪の葦牙會と東京の葦牙會/麻生正記の死
 山の邊の道
 現代の畸人たち
  「現代畸人傳」/東洋と西洋の内なるたたかひ/偉大な敗北
 われらが愛國運動
 【エピローグ】今生の別れ

岡潔年譜2  昭和35年以降の記録/新聞雑誌記事/講演・著作目録

あとがき (抄録)
一 幻の「虹の章」の執筆を終へて
 本書は岡潔の人生と學問を語らうとする第四册目の評傳である。岡潔の評傳はこれまでに三册まで刊行した。既刊の三册を刊行順に挙げると次の通りである。
     『評傳岡潔 星の章』(平成十五年七月三十日、海鳴社)
     『評傳岡潔 花の章』(平成十六年四月三十日、海鳴社)
     『岡潔 數學の詩人』(平成二十年十月二十一日、岩波新書)
 平成七年の秋十一月に岡潔の評傳を書かうと決意してから、すでに十七年余の歲月が經過した。『星の章』が成るまでに八年、『花の章』までに九年を要したが、この二册から派生して新書版の小品『數學の詩人』が完成したのは、評傳への志向が心に萌したときから數へて十三年目の秋十月のことであつた。當初の評傳の構想はこの三册で盡されたわけではなく、もう一册、『星の章』と『花の章』の續篇として『虹の章』を執筆する考へであつた。上記の三册の著作に打ち込んでゐるときも『虹の章』のことは絕えず心に掛かつてゐたが、形をなさないままに平成二十三年となり、ゆくりなく岡の歿後百十年の節目に際會した。歲月の流れの神秘をあらためて思ふ。
 評傳の構想に具體的な形を與へるには廣範圍にわたるフィールドワークが不可缺だが、茫漠として心許ない感じがつきまとひ、前途を想望するといつもめまひのするやうな思ひがしたものであつた。ともあれおほよその見取圖を心に描いた後、平成八年二月を俟つて、いよいよ實際に、生前の岡潔がこの世に印した人生の痕跡を訪ねる作業に取り掛かつた。まずはじめに岡の父祖の地の紀州和歌山の紀見峠に向ひ、それから岡の生地の大阪市東區島町(出生當時の表記。現在は中央區)の界隈を散策した。『星の章』と『花の章』の二册はこの歲月の流れから摘まれた果實であり、これによつて岡の生涯の歩みと學問の生成過程を細部にいたるまで俯瞰することができるやうになつた。人生にも學問にも解明を要する謎が充滿し、神祕的な魅力の雲に隅々まで覆はれた人物なのである。
 フィールドワークの守備範圍は當初から『虹の章』のテーマにも及んでゐた。この卷の内容は岡潔の晩年の交友録であり、具體的には小林秀雄、保田與重郎、胡蘭成、石井勲、坂本繁二郎の五人との交流の模樣を再現したいといふほどの考へであつた。だが、人と人との交友を描くには「人」を知らなければならず、『虹の章』に先立つて『星の章』と『花の章』を書いたのも、もともとそのための土臺を確保するつもりなのであつた。この二册の評傳により岡の人生については相當によく諸事情が明らかになつたが、他方、岡の五人の交友の相手にもそれぞれに固有の人生があり、しかもどのひとりの人生を見てもたうてい尋常ではありえない。このあたりの消息に由來していくぶん複雜な調査と思索を迫られて、様々な困難が相次いで發生したのである。長い歲月に渡つてつねに心にあつたにもかかはらず、『虹の章』はいつかうに完成の氣配を見せず、いつまでも幻の懸案であり續けるばかりであつた。
 交友録とは別に岡潔の晩年の思索の姿を回想することも『虹の章』の重要なテーマであつた。岡は三十代の終りがけのころからつねに『正法眼藏』を座右に置いて親しみ續け、晩年のエッセイの中で、この不思議な書物をめぐつてさまざまな發言を重ねていつた。また、晩年の岡の心情はどこまでも日本に回歸し、みづからを「純粹な日本人」と自覺して、「日本を思ふ心」をしきりに語り續けた。このやうな發言のあれこれは岡の數學研究の姿形とどのやうなきづなで結ばれてゐるのであらうか。
 これに加へて日本語の表記にまつはる諸問題にも直面した。『虹の章』は歴史的仮名遣と正字體の漢字で表記したいと望んだことから發生した問題だが、實際にこの望みを實行に移さうとすると、勢ひのおもむくところ日本語の表記とは何かといふ素朴な疑問に遭遇し、日本の近代に出現した込み入つた論爭の現場に踏み込んでいかなければならなかつた。
 萬事がこんなふうで一年がすぎ、二年がすぎ、『花の章』の刊行後の歲月が流れていつた。この閨A平成二十年に岩波新書の『岡潔 數學の詩人』を出したが、これは主として岡潔の數學者としての姿に焦點を當てた作品であり、『虹の章』とは關係がない。『虹の章』の構成も何度も變遷したが、最後は「石井式漢字ヘ育─心の珠を磨く」「駒込千駄木町の一夜─國民文化研究會」「正法眼藏─玉城先生の肖像」「人閧フ建設─小林秀雄との對話」「龍神温泉の旅─保田與重郎との交友」といふ五篇の文章で編成するといふ構へに落着した。書名もまた「岡潔とその時代」とするのが内容に相應しいといふ考へに傾いたが、そこに小さく「虹の章」と書き添へることにした。「岡潔とその時代」は本書の身體であり、「虹の章」は本書の心である。以下、ひとつひとつの文書について成立過程を略記したいと思ふ。

[後略]

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