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第113回医師国家試験総評

2019/02/17

国試情報

 まず、決して楽ではない試験に2日間取り組んだ受験生の皆さんに、心からお疲れ様でしたと申し上げます。本当にお疲れ様でした。今回の国試は、全般としては標準的な試験であったというのが関係者の大方の観測です。実際、多くの問題は既出問題を検討しておけば解答可能な、手堅い標準問題でした。新規に出題された題材もありましたが、これは例年のことで、想定内の出題数、出題内容であったと思います。従って「番狂わせ」という事態は生じにくい出題でした。ただし、昨年から、ブラッシュアップの足りていない問題が散見される傾向が目立つようになっています。今回もそうでした。この点は最後に触れたいと思います。

臨床実務に即した出題

 112回国試から一般総論の問題が大幅にCBTに委譲され、国試は臨床医学の試験であるという宣言がなされました(当たり前と言えば当たり前ですが)。臨床重視色がますます強まり、この傾向は完全に定着したと考えます。
 今回の出題も、現場の感覚に即した問題が多く出ていました。いくつか例を挙げます。
 我々臨床の現場にいる医師は、梅毒の激増を肌で感じています。梅毒に関する問題が多く出題されており、これは正鵠を射た判断であると申せましょう。A31(既感染梅毒に対する対応)、E48(ペニシリンアレルギーのある患者の梅毒治療薬選択)、E49(梅毒の治療効果の判定)は、いずれも実際的な知識を問う問題です。このような知識を確実に持っていることが研修医には必要です。いずれも国試の趣旨を体現した、優れた出題であると思います。
 高齢化社会の進行に伴い、患者さんの多くが抗血小板薬、抗凝固薬を服用しておられます。これに伴う頭部外傷や消化管出血の重症化というのは我々臨床医師が日々直面している問題です。C54~56、C63~65はまさにこういう題材を取り上げています。いずれも現場感覚に即した、良い出題です。
 歯突起周囲の偽痛風、いわゆるcrowned dens syndromeは、これまた高齢化社会の進行に伴ってcommon diseaseとなった疾患です。救急外来では、この疾患の存在は今や必須知識ですがD40でこの疾患が出題されました。本問は、典型例が提示されていること、消去法でも正答が可能なこと、から教育的配慮の行き届いた良問です。新規の題材は、選択肢の作り方をよほど工夫しないと単なるアテモノになりがちです。国家が威信をかけて施行する試験が単なるアテモノであってよいはずはなく、選択肢を十分に練った出題に敬意を表したいと思います。
 同様に、これも高齢化社会の進行に伴って遭遇する機会が増加した、大脳皮質基底核変性症を診断させるD32も優れていると思います。典型例を提示し、かつ消去法でも正答できるように配慮して作られています。

直近の問題の検討が重要である

 B27は胸腔ドレーンが抜けかけているが、さあどうする? という、これまたリアルな話です。正答率が低かったのですが、112回に類題がありました。既出問題を丁寧に検討していれば解答可能だった問題です。国試は前回の出題者の8割くらいが留任する試験です。112回の検討にかける労力:111回以前の検討にかける労力=1:1.5であるべきだというのが筆者の持論ですが、今回もこの原則が成り立っています。
 なお、112回国試では術後管理、手術合併症の問題がやたらに多く出題され、中には「これはムリではないか」という問題も散見されましたが、今回はこのタイプの問題は妥当な割合に減少しました。また、上記B27のように、112回国試の検討が十分であれば解答可能な問題が多かったと感じます。

「行き過ぎ」の観もある問題

 その一方、この判断は学生にはムリではないか? という出題も散見されました。
 例えば、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術の術後後遺症を問うD39ですが、これはムリではないでしょうか。射精はできなくなり、言われてみればその通りですが、医学生が知っている必要があるでしょうか。大多数の医学生は泌尿器科専門医にはならないのですから。
 ALSの患者さんで、現時点で検討すべき方針を問うA47は、臨床の現場で確かにこういう場面に遭遇する、非常にリアルな問題です。筆者はそのリアルさに感心し、作問の巧みさにも感嘆しますが、医学生にこの判断は困難ではないでしょうか。理由は簡単で、医学生は臨床実務を経験していないからです。また、本問のような状況に大学病院で遭遇することはまれで、むしろ市中病院で遭遇することが多いでしょう。ほとんど大学病院で学生実習を行う医学生には解答が困難なのではないかと感じられました。
 臨床重視の方向はもちろん健全な傾向です。しかし、医学生は臨床実習ですべての疾患を経験するわけではありません。「どの診療科に進むとしても知っているべき」水準に揃えるのが望ましいでしょう。

割れ問はなくならない

 「割れ問」という用語を作ったのは筆者ですが、例年割れ問には苦しめられます。
 割れ問には二種類あります。国試出題時点では超難問であったが、ガイドラインのようなしっかりした典拠があり、調べればわかるし、要するに「時代に先駆けすぎた」問題です。このような問題は新知識を国試にもたらしてくれた、試験問題としては機能を果たさなかったが、内容的には正確な問題です。「シュードpseudo割れ問」とでも呼ぶべき問題です。もう一つは、どう考えても答が一意に決まらない割れ問で、これが「真正eu割れ問」です。真正割れ問に対峙するとき、我々は答が出ないのに不毛な二者択一ないし三者択一に悩むことになります。本当に不毛です。以下、真正割れ問を単に割れ問と呼びます。
 C15は三脚骨折ですが(三脚骨折が国試に出るのも驚きでしたが)、文献によると開口障害だけでなく、咬合不全も起こるとあります。これは答が決まらないのではないでしょうか。
 NMOとMSを比較してNMOらしい所見を選ばせるD11は、髄液細胞数が想定される答ではあるものの、抗核抗体陽性の場合はNMOを考えることになりますので、これも答になり得ると思われます。
 肺癌で喀血している患者さんへの対応を問うF79もどうかと思われました。喀血を誘発している咳嗽を止めることが先決ですが、バイタルサインは頻脈を示しており、補液も必要と考えた医学生(目配りのできる優秀な医学生です)は解答に困ったのではないでしょうか。これはX2形式の方がむしろ紛らわしくないと思われました。
 過去、割れ問が撲滅された回があり、それは107回です。客観式問題は形式的には客観的ですが、実際には出題者の主観が入りやすい問題形式です。ブラッシュアップを綿密にやることで割れ問は撲滅できます(現に107回はそうだったのですから)。112回もそうでしたが、割れ問が最近目立つのは良くない傾向だと考えています。

最後に

 しかし、冒頭に述べましたように、113回国試も最近の国試と同様に「既出問題の検討で解答できる大多数の問題+少数の新出問題(多くは自然に解答可能なもの+ごく少数の割れ問)」で構成されており、「ごく少数の割れ問」は合否に影響ないでしょうから、要するに日ごろの勉強がほぼそのまま点数に反映されやすい試験になっています。非常に健全なことであり、今後もこの傾向は踏襲されるでしょうから、医学生は国試に必要以上のストレスを感じなくてよい――普通に勉強していればよい――と思われます。月並みですが、これを以て今回の総評の結びとします。